マタニティ歯科

「自分は歯でいろいろと苦労をしてきたので、子供には同じ苦労をさせたくないんです。」診療をしている中で、お母さまからこのようなお話をお聞きすることがあります。

あるデータでは、シニア世代が「後悔していること」の1位は「歯の定期検診を受ければよかった」だったとのこと。歯が丈夫なうちはなかなか気が付きませんが、歯が心身の健康にもたらす影響はとても大きいということが解ります。母親にとって、お子さまの健康は自分の健康以上に気になってしまうものですが、実は、歯に関しては、子さまを虫歯にしないためにはお母さま自身の歯をメンテナンスすることがとても重要だったりもします。

当院では、お子さまの健康のためにも、妊娠中からのデンタルケアを強くおススメしております。

母親に虫歯があると、子どもの虫歯発生率は3倍以上に

2歳児の虫歯の状況を調査したデータでは、お母さまに虫歯のないお子さまの場合、むし歯発生率が24.1%だったのに対し、お母さまに虫歯のあるお子さまのむし歯発生率は75.9%と、圧倒的に高いということが解っています。

生まれたばかりの赤ちゃんのお口の中には、虫歯の原因となる「ミュータンス菌」は存在しません。

しかし、お母さまや周りの人から唾液を介してミュータンス菌が移ると、赤ちゃんのお口の中で菌が繁殖し、虫歯へと発展してしまいます。

当然、お母さまのお口の中に菌が多い状態だとお子さまへの感染リスクは高くなります。また、お母さまの生活習慣がそのままお子さまに反映されることで、お子さまが虫歯になりやすい体質になってしまうということもあります。

まずはご自身が、規則正しい食生活やメンテナンスの習慣をしっかりと意識することで、お子さまを虫歯や歯周病から守ってあげることができるのです。

お母さんのお腹の中で、赤ちゃんの歯は既にでき始めています。

赤ちゃんの歯は、お母さんのお腹の中にいる時に形成されています。そして、お母さんから歯の形成に必要な栄養をもらいながら再石灰化を進めていきます。

歯の栄養には、カルシウムだけでなく、タンパク質、リン、ビタミンA・C・Dといったの栄養素も必要です。

生まれてくる赤ちゃんのためにも、妊娠中は特に、必要な栄養素が不足しないように栄養バランスを考えた食事をとるようにしましょう。

妊娠中になりやすいお口のトラブル

このほど、ドイツとオランダの研究チームが「女性は子供の数が多いほど、抜ける歯も多い」という研究成果を明らかにしました。日本でも昔から「一子産むたび、歯を一本失う」と言われてきましたが、事実、妊娠中には歯や歯肉にトラブルが起きやすくなります。

その理由としては、つわりによって歯みがきがおろそかになりがちな事、食生活が乱れ間食が増えてしまいがちな事、そのほかホルモンの乱れや唾液量の低下など、幾つもの悪条件が重なっているからです。

妊娠性歯肉炎

妊娠性歯肉炎とは、主に妊娠中期から後期にかけて発生しやすい歯肉炎で、女性ホルモンの分泌量が増すことで引き起こされやすくなる病気です。

具体的には、妊娠中はエストロゲンとプロゲステロンというホルモンが急激に増加しますが、このホルモンを栄養源として歯周病菌が繁殖し、炎症を増加させてしまうのです。

妊娠中はつわりによってお口の中のメンテナンスが充分にできなかったり、食生活が乱れて間食が増えるなど、細菌の増殖しやすい条件が揃っていますので、比較的容易に歯肉炎を起こします。

つわりや体調不良で歯磨きができないときは、洗口剤を利用したり、水やお茶などでうがいをしたり、キシリトールガムを噛むといった工夫をして、お口の中を清潔に保つことが大切です。

妊娠性エプーリス

エプーリスとは、歯茎に出来るコブのようなもので、歯肉腫と呼ばれる場合もあります。エプーリスにはさまざまな種類がありますが、妊娠中に発生するものはホルモンの影響によるものと想定されており、良性のものがほとんどです。大半は出産後に自然となくなりますが、気になる場合はお気軽にご相談ください。

妊娠中の歯科治療について

妊娠中はどうしても、歯科医院に通うのも面倒になりがち。 中には、お腹の中の赤ちゃんへの薬やレントゲンの影響を考えて歯科治療をためらっている人もいらっしゃるようです。

しかしながら、歯や歯茎のトラブルを放置して治療せずにいると、お腹の中の赤ちゃんにも悪影響を及ぼします。1996年にアメリカの研究グループから発表された調査内容によると、重度の歯周病を持つ妊婦では、一般の妊婦に比べて、早産・低体重児出産のリスクが7.5倍にも増加していたとのこと。

早産や低体重児出産はさまざまなリスクを伴いますので、母子の健康のためにも妊娠したらまずは歯科検診を受診し、適切な治療と指導を受けるようにしましょう。

歯科治療は安定期におこなうのがベストです。

歯科治療は、胎児や妊婦への影響から考えて、比較的安定している妊娠中期(5~7カ月)が望ましいとされています。

この時期であれば簡単な手術や処置も含め、ほとんどの治療が可能になりますが、服用できる薬は制限されますので歯科医師とよく相談し、麻酔や麻酔を伴う抜歯は慎重に治療をすすめるようにしましょう。妊娠初期はお腹の中の赤ちゃんの体の各部分ができ上がってくる大切な器官形成期にあたるため、歯科治療は特に慎重に取り組む必要があります。つわりや流産のリスクなどを考えて、妊娠初期の歯科治療は応急処置程度の負担の少ない範囲にとどめることをおススメします。

また、妊娠後期では、急激に血圧が低下する仰臥位性低血圧症候群を引き起こすリスクも出てきます。おなかが大きくなって動悸や息切れも起こりやすいですので、緊急性がない場合は無理せず産後に行うことも考えましょう。

無理をせず、楽な姿勢で治療を行います。

妊娠をしてお腹が大きくなってくると、仰向けで治療を受けることが苦しくなる方が多くいらっしゃいます。長時間そのような苦しい状態でいると、吐き気や動悸、息切れ、血圧の低下などを引き起こしてしまう可能性もありますので、少し椅子を起こしたりしながら苦しくない姿勢で治療を進めるように配慮しております。また、妊娠中はどうしてもトイレが近くなったり、突然気分が悪くなったりしてしまう場合も多いですので、そのような場合は無理に治療を続けずに、体調に合わせて予約の取り直しをさせて頂くようにしております。

少しでもおかしいなと感じたら、遠慮せず気軽に歯科医師や歯科衛生士にお伝えください。

胎児への影響について

お母さまにとって何よりも気になるのは、生まれてくる赤ちゃんへの影響についてではないでしょうか?
当院では、おなかの中の赤ちゃんにも最大限の配所をし、治療計画をご提案しております。

レントゲン

歯科医院で撮影されるレントゲンはお口の部分のみにあたりますので、おなかの中の赤ちゃんへの影響はほとんどございません。とはいえ、やはり、本当に大丈夫なのかと気にされる方はとても多くいらっしゃいます。

そのような不安や心配、ストレスなどはおなかの中の赤ちゃんにとっても良い影響を及ぼしませんので、当院では妊婦さんの治療の場合、レントゲン撮影はなるべく控えるようにしております。どうして撮影が必要な場合においても、まずはご説明・相談させていただきますのでどうぞご安心ください。

麻酔

歯科治療の際に使われている麻酔は、キシロカインというもので、妊娠安定期に入った妊婦さんの場合、胎児への影響はほぼ無いと言われております。ただし、妊娠初期(1~4ヶ月ころ)の場合は精神的にも不安定な場合が多く、麻酔時の痛みやストレスによって気分が悪くなってしまう場合もありますので、この時期には治療を避けた方が良いでしょう。

歯科治療後に痛み止めを処方する場合がありますが、痛み止めの薬の中には妊娠中には使用できない薬があるので注意が必要です。

たとえば、鎮痛剤として使われる「ボルタレン」や「ロキソニン」は妊娠中の使用は禁止されていますので、妊娠中の方には処方いたしません。妊娠中の方の場合、痛み止め薬としては「カロナール」、抗生物質としては「サワシリン」を処方させていただいております。

授乳の時期になりますと使用できる薬も増え、妊娠中の時に使用可能な薬に加え、抗生物質として「フロモックス」や「メイアクト」という薬も使用が可能になります。状態によって適切なお薬が変わってきますので、主治医とも相談のうえで適切で安全なお薬を処方するようにしております。